涼宮ハルヒの願望

閑話休題、ここでSOS団のメンバーについて考えてみましょう。


長門有希朝比奈みくる古泉一樹の三人については作中でもあるように、ハルヒの宇宙人、未来人、超能力者がいてほしいという願望と、いるはずないという常識の葛藤の合間で呼び寄せられたということなのですが、キョンはどういう経緯でいるのでしょうか。古泉も言うようにキョンは「普通の人間」でありながら、涼宮ハルヒにとっての「鍵」なのですから、偶然で片付けるわけには行きません。

小学校時代に自分の小ささに気づいてしまったハルヒが世界を「面白い」と考えられるようになるには2つの道があります。1つはSOS団が行っているように普通でない人間を集めてくることです。もう1つの道は、気づく前の自分に戻ることですが、当然ながら不可能です。そこでハルヒは、意識の上では第一の道を進み、無意識では第二の道への願望と不可能だという常識の交錯の中で、「普通の人間」の代表としてキョンを登場させたのではないかと僕は解釈します。

そうすると憂鬱VIでキョンだけが新世界に呼ばれたのは、「『自分が特別だ』と思えるような(普通の)人間に戻りたい」という願望を実現してしまえば宇宙人的な特別な存在を求める必要がなくなる、と考えれば納得できます。それでは、最後の新世界崩壊のシーンについて考えてみます。

シーンを見る限り、キョンに説得されて元に戻したという線はありえません。さらに、翌朝の長門のせりふを考えるとこの世界が元の世界であることは間違いなさそうです。また、2人のアドバイスについても、朝比奈さんは未来から現れているし、長門は以前に「時間移動はそんなに難しいことではない*1」と語っている上、涼宮ハルヒ情報統合思念体にない能力を持っているということから考えて、2人とも未来から情報を得てギリギリの線でキョンに渡している、と考えるのが自然でしょう。というわけで、結末を誰かが(観測でなく)予測していた可能性は薄いです。

ハルヒが「精神病の一種」と評したように、普通の人にとって恋愛は日常の範疇を外れた出来事となっています。しかし、ハルヒにとっては相手が普通の人だと常識の枠内に収まってしまい何の面白みもない、だから「普通の人間の相手をしている暇はない」となってしまうわけです。面白みが消えているからこそ「一時の気の迷い」と冷静に判断できているわけです。

しかし、新世界の中ではハルヒが普段以上に楽しんでいるので、これは彼女の願いどおりに純粋な心を(ある程度)取り戻した状態、と考えるのが妥当でしょう。そしてキョンは2人のメッセージから、自分の深層にあった気持ちを発見しました。そして言葉でハルヒに伝えますが、この時点ではまだ心に無常観のような前世界での感情が残っていて「バカみたい」といっています。そこでキョンは更なる実力行使に出ました。その結果、純粋な心を抱えるハルヒに気持ちが届いて、それこそ「一時の気の迷い」かも知れませんが、純粋な気持ちが100%に達したのです。その瞬間、涼宮ハルヒは力を失い新世界は崩壊したのです*2

新しい時空間は学校の周囲に限られていたので、涼宮ハルヒの力がそれを支えていたものと思われます。また、パワーを失って元に戻ったと解釈しないと、せっかく手に入れた「純粋に楽しむ心」がなくなった理由の説明がつきません。

なお、この解釈はアニメ版のみを基にして組み立てているので、ライトノベルの話と矛盾が生じる危険性がありますが、それはご了承ください*3

*1:長門もおそらく情報の時間軸移動なら可能だと思われます。

*2:幽霊話でも、未練がなくなった瞬間に幽霊は存在できなくなる、というのが標準設定です。

*3:こんな適当な評論で何か組み立てる人もいるとは思えませんが。